―CM曲とカヴァー曲とで構成された本作ですが、選曲も含めてどのように制作されたのですか?

土岐:このアルバムはもともと、「Gift 〜あなたはマドンナ〜」ありきで話が進んでいったんです。CMソングだし、手に取りやすい曲なので、アルバム自体も全曲を通して聴きやすく、土岐麻子の中でもコーマシャリスティックなものを集めて構成しています。
選曲も、ほとんど迷わなかったですね。カヴァー曲はあえて、ジャケットの裏面で曲目を見たときに、“あ、この曲知ってる!”と興味を持ってもらえそうな本当に有名なものばかりを集めました。さいわいな事に、「Gift 〜」がCMを通じて老若男女問わずたくさんの人に聴いてもらえる曲になったので、「Gift 〜」をきっかけにこのアルバムを手に取ってくれた小中高生、音楽に関心のある世代が「COME ON A MY HOUSE」や「青空のかけら」を聴いて、そこから江利チエミさんってどんな人だろうとか、昔の歌謡曲ってすごいなとか、そうやって音楽をさかのぼってくれるかもしれない。そんなことも、意識しながら選んでいます。

―これまで数多くの楽曲をカヴァーしていますが、そのおもしろさは?

土岐:単純に自分が歌いたいだけだったりもするけれど、カヴァー曲って、みんなが知っている曲を、この人はこう歌う、あの人はあんな風に歌った、という違いがおもしろいと思うんです。だから、今はマニアックな曲をカヴァーすることにはあんまり興味がない。どちらかと言えば、スタンダードと呼べるような有名な曲を歌って、その曲を知らない世代の人達にもその音楽を新たに伝えていきたいっていう想いが強いかなぁ。アルバムを作る時には、たとえば「September」や「(Everyone wants to)Rule The World」のような有名曲と一緒に、いわゆるアメリカのスタンダードナンバーも織り交ぜて、ひっくるめて紹介する、みたいなことも考えたりしています。

―今作では、マスタリングの仕上がりに舌を巻いたとか。

土岐:今回はこれまでにリリースしたアルバムの中から曲を選んでいるので、ミックスもマスタリングもまったく違う曲たちを集めて一枚のアルバムとして成り立たせるためには、曲順でストーリー性を出し、マスタリングで音の世界観を整えることで、全曲を通して聴いた時の作品性を創るしかない。そう考えてはいたんですけど、正直、マスタリングでここまで変わると思っていなくて(笑)。
アルバム『Summerin’』の曲はけっこう攻撃的な音だし、『TALKIN’』は音がすごくやわらかくて丸い。それがどこまで一緒になるかなっていう不安もありつつ、 “ライト”っていうアルバムのイメージをエンジニアさんに伝えた上で、機材を変えたり、ああでもない、こうでもないといろんなことを試してみたら、びっくりするくらい印象が変わって。
初めて聴いた時には、本当に優しい音だ、と思いました。サウンドが中和され、全体を通してデコボコがなくなったことで、聴きやすくて、有機的な感じになりました。

―アルバムタイトルに入っている“LIGHT”はどのように決まったのですか?

土岐:これ、実は事務所のスタッフが“軽く手に取る感じの、ライトな作品を作りたい”って言ったのがきっかけなんです。最初はそこからイメージを発展させて、もうちょっとかっこいい言葉や凝った言葉にしようと思ったんですけど、結局“LIGHT”がいちばんわかりやすいな、と。たとえば“マルボロ・ライト”とか、“コカコーラ・ライト”みたいなイメージ(笑)。土岐麻子のライトサイド、いわば“入門盤”みたいな気軽さで、手に取ってもらえたら嬉しいですね。
私自身は、これまで歌ってきた曲をこういう形でバラバラに並べてみたことによって、土岐麻子の音楽というものが、すごくハッキリ見えたような気がしています。オリジナルの曲を歌うことでその人が見えるのは当たり前のことだけど、カヴァー曲を歌う時には、歌い手がその曲をどれだけ自分のものにしているか、どんな風に自分のものにしているか、を意識する。そういう意味では、自分の側面が見えすぎちゃったかもしれない(笑)。

01.Gift 〜あなたはマドンナ〜(資生堂「エリクシール シュペリエル」CMソング)

憧れの80年代ムードをそのど真ん中で作ってきたEPOさんと資生堂のタッグという素晴らしい形に、ラッキーにも参加できた曲。
資生堂の方から、このCMでは古きよき資生堂の雰囲気や、キラキラして凛々しい女性像を現代の人たちに伝えたいんだ、という意図を聴いて、嬉しさと同時にどこか強い縁を感じたんです。もともとはCM用の30秒しかなかった曲だったところを、ぜひ一曲にさせてください、とお願いしました。
女性目線での憧れの女性を歌ったEPOさんの歌詞は、全部簡単な言葉で書かれているのにどこか、人生経験を積んだ重みも感じる。もちろんこれを歌って発信していくのは自分なんだけど、それ以前に私自身、ありのままの姿で嘘をつかない、そういう生き方でいいんだってすごく励まされています。

02.How Beautiful (ユニクロTV-CMソング/2008年)

ユニクロのCMの話があった時に、もともとはカヴァー曲を歌う予定だったのが、アルバム用にさかいゆうくんからもらっていた曲がCMのイメージにもっとも合う、ということで起用されたのがこの曲。
たくさんある作品の中でも、もっとも自分の内側に寄り添う曲のひとつ。小さな世界からビューティフルで広大な景色が見えてくるという、自分の中でしか起こらない、自分のための曲という感じです。
ライブで歌う時も、基本的にはお客さんを楽しませることを意識したり、会場全体の空気を感じて歌うけれど、この曲は、自分の半径1メートルくらいの世界の中で歌う。そうすることで、この曲をいちばん伝えられると思っています。

03.Waltz for Debby (BILL EVANS / NISSAN「新型TEANA」TV-CMソング/2008年)

この曲はCM部分の歌詞だけが先に出来ていたので、後から一曲分の歌詞を作るのに苦労した覚えが。原曲がもともと小さな女の子のために書かれたものなんですが、歌詞では主人公を少女や男の人に見立てたりした結果、最終的に愛するパートナーが死んでしまったおばあさんにたどりついたんです。
メロディが優しくて、すごく刹那的な感情に寄り添ってくれる曲。だから、一曲の中で立ち直っていくのも似合わない感じがして、いま目の前にいない人を想って悲しんだり立ち止まったりすることは悪いことじゃないよ、それでいいんだよって寄り添ってくれる歌になればいいなって。当時の私はそんな悲しい想いをしたことがなかったけど、今はこの歌詞に結構励まされることも(笑)。不思議ですね。

04.ALL YOU NEED IS LOVE (THE BEATLES / docomo Answer 「STYLEイルミネーション」篇CMソング/2009年)

CMの話が来たときから、難しいなぁ、と思っていた曲。ビートルズって、ポップ的な要素ももちろんあるけど、やっぱりロック。その人の中から出てくる“節”みたいなものがそのままメロディになっているし、メッセージを伝えるための曲だから、ポップスのカヴァーみたいにオープンじゃないんです。
たとえば、この歌詞でこのコード進行で自分がメロディを一からつけるとしたら、きっとこういうふうにはならない。メロディって、作り手の話し方や、イントネーション、話すスピードや強調したいところによってメロディってぐんぐん変わる。だから、この曲に関しては、ジョン・レノンに重なりながら、彼の言葉が自分の中から出てくるようになるまで、ただひたすら練習しました。

05.い・け・な・いルージュマジック (忌野清志郎+坂本龍一)

今回のアルバムで、唯一の新録曲。どの曲を入れるか、いろいろと迷ったんですが、「Gift〜」の雰囲気とアルバムのコンセプトでもあるライトなイメージから、80年代の資生堂の曲を入れたらおもしろいかなぁ、と。数ある曲の中から、男性が歌った曲の方が印象がガラっと変わるだろう、という意図と私のリスペクトをこめて選んだものの、これがとても難しかった!
清志郎さんの言葉や癖は、あの人のパーソナリティから出てきているものだから、最初はどうしよう…、と悩んだりもしたんですけど、川口(大輔)くんが、魔法のようなアレンジですごくポップに仕上げてくれたおかげで、そこからはすんなりと歌っていくことができました。

06.小麦色のマーメイド (松田聖子)

この曲が収録されたアルバム『Summerin’』では、都会から見たさわやかな夏、大人の聴く夏のポップスみたいなものを作りたかったから、メンバーも大人の演奏が出来て、なおかつ同世代に近い人達が集まったんだけど、パーカッションのヒデローさん以外はみんな本当に夏が似合わなかった(笑)。
これを歌う時の私は、聖子ちゃんよりも、(作詞の)松本隆さんの気持ちに近いかもしれない。こういう曲で、こういう風景の中にこういう性格の主人公がいて、こんなこと言っちゃったら可愛いよね、みたいな感じ。上手くいえないけど、ワビサビみたいなグッとくる瞬間をすごく良く切り取っていて、その情景描写に、私も深く共感します!という気持ちで歌っています。

07.Reach Out, I’ll Be There (THE FOUR TOPS)

もともとはモータウンな曲だから、馬のひづめから始まるような、勇ましいカウボーイみたいなイメージが強いけど、同じモータウンでもシュープリームスみたいな愛らしさをイメージして作り上げた曲。
私が幼い頃、いつも父が家でレコードを聴いていたんですけど、その時によくかかっていた曲はみんな、ブラックミュージックだったんですね。その影響もあってか、私自身もどこかソウルフルなものがすごく好きで。中学生くらいかな、意識的に洋楽を聴き始めた頃にも、入りやすかったのはジャクソン5やモータウンモードだったんです。自分自身はポップスのフィールドの歌手である、とはっきり自覚しているので、歌う曲のジャンルにはあまりとらわれないし、何でもやってみたいです。

08.サマーヌード (真心ブラザーズ)

これは、私が学生の頃にすごく流行った曲。この曲を聴くと、青春のなつかしい胸騒ぎ、みたいなものを思い出します。この曲に関しては、男の子に対する憧れ、みたいなものがすごくあって。クドカン(宮籐官九郎)のドラマや映画を観ている時に感じる気持ちにもすごく似ているんです。男同士にしかわからない、ちょっと青春っぽい感覚、言葉にしなくてもわかちあえる感じだったり、そういうちょっとした生の瞬間が曲の中に溢れていて。歌詞の言葉自体はそんなに綺麗な言葉ばっかりを使っているわけじゃないんだけど、全体的に眺めた時に、そこには女が絶対に入れない美しさがある。その中に、あえて入ってみたかったんですね(笑)。

09.HUMAN NATURE / sings with 和田唱 from TRICERATOPS (MICHAEL JACKSON)

TRICERATOPSの和田(唱)くんと一緒に歌ったこの曲は、彼のマイケルに対するリスペクトや、この曲に向き合う態度のまっすぐさがものすごくわかりやすい形で現れていて、カヴァー曲としてすごく成り立っているところが好き。彼は本当に、音が始まった瞬間に音楽になれる人。これは一緒に録ったテイクなんだけど、うまく歌おう、みたいな邪念のない真ん中にひっぱっていってもらった感覚でした。
人間だったら誰しも共感できることをすごく素直に、ああいう美しいアレンジで演ったら、それはとても響くし、しかもそれをあのマイケルっていうポップスターが歌っているところがおもしろいと思っていたけれど、人間が決めた正しいこと、正しくないことの間にあるもので、人間が生まれるずっと前からそこにあるもの、というあまりにも本質的なことについて歌う勇気、みたいなものも感じた一曲です。

10.Lucy In The Sky With Diamonds (THE BEATLES)

もともと、歌詞の内容もよくわからない、絵本みたいなこの曲の音像や世界観がすごく好き。たぶん作った本人たちも、明確な何かっていうよりは、よくわからないけど、という域を切り取った、それこそ当時のファッション的な感覚でいたんじゃないかなって思っています。
これは、air plantsのライブにゲストで出させてもらった時に歌ったのがきっかけでレコーディングすることになったのですが、こういう幻想的な曲を、チェロとバイオリンとギターっていう、曖昧で夢のある弦楽器だけで演る、というのがすごくおもしろくて。打ち込みとは違うピッチの繊細さや、音と音の間の曖昧なニュアンスや色気、そういうものの間を縫うような、泳ぐようなイメージで歌っています。

11.青空のかけら (斉藤由貴)

小学生の時に、風邪をこじらせて2週間くらい学校を休んだことがあって。あまりにも苦しくて、外にも出たくなかったその時に、斉藤由貴さんがこの曲を歌っているのを初めて観て、“あっ、夏が来る。外に出たい!”って強く思ったんです(笑)。夏の爽快感と、青い海と青い空っていう、はっきりとした映像的な感覚がすごく伝わってきて、病気で底辺を鬱々としていた感じから、一気に高いところにポーンと連れて行かれて、すっかり励まされた感じだったのを覚えています。
高みから、さあ進もうって行進曲みたいな感じで言われても歩けないけど、こんなふうに迷ってる女の子でも前に進んでるんだっていう“やけっぱちのパーティー感”に、すごく共感してしまいます。

12.COME ON A MY HOUSE (江利チエミ)

江利チエミさんの音楽に触れるようになったのはここ4、5年のことだけれど、彼女は私にとって初めて、“この人になりたい”って思った人。もはや、のりうつってくれないか、と思ってしまうくらい好きなので、この曲は彼女に対するリスペクトや、チエミさんを知ってもらいたいという気持ちと、“だって、やってみたかったんだもん!”というものすごい私情とがはさまっています(笑)。 この歌が出た当時は、全国的にアメリカのジャズを広めたいという戦略で、民謡風の節回しを織り交ぜて親しみを覚えさせていたそう。こういうスタンダードな曲に和訳をのせたものって、異常にわかりやすくって、そのアンバランス感、ミスマッチ感がベストマッチ。すごくおもしろいなって思っています。

(text by Kiyono Yoshihara)

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